「全頭検査」と「国際基準」－米国産牛肉の輸入再開問題－

【唯我独尊（ゆいがどくそん）】　＊①天上天下唯我独尊（てんじょうてんげゆいがどくそん）の略②世の中で自分一人だけがすぐれているとすること。ひとりよがり－広辞苑

　米国産牛肉の輸入再開問題をめぐり米国が対日圧力を強めている。来日したライス米国務長官は１９日、小泉首相、町村外相らと会談し、日米関係に悪影響をもたらしつつあるとして、米国産牛肉の輸入の早期再開を求めた。この問題の本質は「食の安全」だ。貿易摩擦ではない。「日曜百姓」を自認する私の「農」の師大平勝さんは、有吉佐和子の小説『複合汚染』をきっかけに「安全でおいしい」有機野菜を作り始めた。このコラムの最初のテーマとして、米国産牛肉の輸入再開問題を取り上げてみたい。

▽ＯＩＥの基準は最低限の基準
　米国産牛肉の輸入再開問題のキーワードは全頭検査だ。日本は２００１年のＢＳＥ発生を機に、食肉処理されるすべての牛を対象とした検査に踏み切った。世界的にも、最も厳しいとされる基準だ。米国は「自分の国の検査は国際基準を満たしており、安全。日本が科学に基づいた国際基準に従うよう望む」と全頭検査を実施している日本の特異性を指摘している。
　どうやら、米国は過去の日米貿易摩擦を引き合いに出し、日本の全頭検査を日本市場の閉鎖性の象徴に仕立て上げようとしているようだ。そこで、全頭検査と検査の国際基準の関係について知りたくて、２０付朝刊各紙を丁寧に読み比べると同時に、ネット検索してみた。その結果、毎日新聞の記事が分りやすく説明していたので、紹介したい。

【毎日新聞・２０日付朝刊から】
　ライス長官が日米外相会談で「米国は満たしている」と主張した国際基準は、国際獣疫事務局（ＯＩＥ、日米など約１７０カ国加盟）が定めている基準だ。ＯＩＥは、異常プリオンが蓄積しやすい牛の特定危険部位（脳や脊髄（せきずい）など）の除去を第一に掲げ、併せて発生状況を確認するためのモニタリング検査などを求めている。各国の発生状況などで、必要な検査頭数は異なる。
　米国では０３年１２月にＢＳＥ感染牛が初めて確認され、生後３０カ月以上の牛の特定危険部位の除去と、歩行困難牛などを対象とした検査頭数を倍増（年間約４万頭）する対策を導入し、ＯＩＥの基準を満たした。
　しかし、ＯＩＥの基準は国際貿易を考慮した最低限の基準で、科学的に正当な理由があれば、各国がより高い措置を取ることができる。欧州連合（ＥＵ）は生後２４～３０カ月以上の牛で全頭検査を実施している。日本もＢＳＥ感染牛が確認された０１年秋以降は全頭検査を導入した。厚生労働省は当初、ＥＵ同様に生後３０カ月以上を検査対象と決めたが、国民の不安解消のために全頭検査に踏み切った。その結果、生後２１カ月と２３カ月の若い牛を含めＢＳＥ感染牛が１５頭確認された。

▽日本産牛肉の輸入はストップしたまま
　読売新聞は「約７０年ぶりの公的年金改革という重要な政策課題に取り組むブッシュ政権にとって、有力な支持団体で、強い政治力を持つ食肉業界との関係悪化は極力避けたい、という事情もある」と米国の強硬姿勢の背景を解説している。
　米国内の政治問題貿を貿易摩擦にすり替え、その「つけ」を、日本に払わせようとしているというわけだ。米国はＢＳＥ発生国からの牛肉は輸入禁止している。日本産牛肉の場合は、２００１年に日本でＢＳＥが発見されて以来、輸入がストップしたままだ。不公平としか言いようがない。
　米国は本当に①でいう「天上天下唯我独尊」の略ではなく、②の「世の中で自分一人だけがすぐれているとすること。ひとりよがり」という意味での「唯我独尊」の国だと思う。

＊天上天下唯我独尊　釈尊が生まれた時、一手は天を指し、一手は地を指し、七歩進んで、四方を顧みて言ったという語－広辞苑