「ももは歌い、詩（うた）う」（児島百代著 かまくら春秋社）

　「ももは歌い、詩（うた）う―私の心の軌跡―」（児島百代著　かまくら春秋社　定価：本体１８００円+税）
　２６歳で亡くなった故郷の無名詩人レヴィンのコンサートでお世話になると同時に、飲み友達でもある敬愛する「ももちゃん」こと、児島百代さんが、７７年間の人生を文章と詩で振り返っている。

　プロフィールに「多くの優秀な人材を育てた」あるようにももちゃんは、偉大な教師である。生徒の才能を瞬時に見破り、適切な指導をする。これができるのは志、豊かな感性、人を愛する心、社会への奉仕の精神を兼ね備えているからに違いない。

　このように書くとなんか厳格な教師像が浮かび上がってくるが、素顔のももちゃんはいつまでも少女の素直な心を失わないとても“可愛い”女性である。今回の出版を機に、これからのさらなる活躍をお祈りしたい。

【児島百代（こじま・ももよ）さんのプロフィール】
　合唱団指揮者。声楽家。１９３２年東京青山生まれ。都立駒場高校を経て東京藝術大学で声楽を学び、卒業と同時に北鎌倉女子学園の教諭となって大好きな合唱を指導しながら３２歳の時、同学園に中学音楽コース、高校音楽家を創設して６５歳で定年退職するまで多くの優秀な人材を育てた。その間、ベルリン留学、ソプラノリサイタル３回と自らも研鑽を重ねている。一方２６歳から日曜日にはカトリック雪の下教会でグロリア少年合唱団の育成に関与した。鎌倉合唱連盟理事長。




　２月１１日、「ももは歌い、詩（うた）う」の出版記念会が鎌倉芸術館３階集会室で開催された。出版記念会には、降りしきる雪の中、音楽関係者を中心に約１００人が参加した。出版記念会ではももちゃんの教え子の一人で著名なソプラノ歌手亀田真由美さんが、これまた教え子の坂元陽子さんのピアノの伴奏で、素晴らしい歌声を参加者に披露してくれた。

　正直言うと、音の高いソプラノは苦手である。しかし、亀田さんの歌声を聴いて、ソプラノに対する苦手意識が吹っ飛んでしまった。亀田さんの歌声はとにかく美しく、耳に心地よかった。これは参加者全員の共通の感想だろう。ももちゃんは亀田さんが中学生の時に声楽家の道を歩むことを勧めたという。

　「どうして亀田さんに声楽家になるようにと勧めたんですか？」とももちゃんに聞いてみた。「歌に心があった」とももちゃんは答えた。すごい。ももちゃんはやはり稀少な「達人」の一人である。