高村光太郎ジオラマ制作日誌（其の５）「光太郎と智恵子」

高村光太郎ジオラマ制作日誌（其の４）「高村光太郎花巻にて」

　北鎌倉の皆様、当湧水ネットワークのブログを訪れる皆様、いつも高村光太郎ジオラマ制作日誌を読んで下さりありがとうございます。品川の石井彰英（まほろば楽団団長）です。先日、某ＴＶ局で智恵子さんのレモンの碑を紹介いたしました。短く編集しました。ご覧ください。

智恵子さんのレモンの碑を紹介
https://www.youtube.com/watch?v=laWKqRgj-7M&t=11s

いやなんです
あなたのいつてしまふのが――
（略・・・）
あなたがお嫁にゆくなんて
　　　　　　　　　　　　Ｎ－女史に　（高村光太郎）

　他の男性と結婚が決まっていた智恵子さんに宛てた詩です。この詩にこんな一節があります。
　あの醜い猿の児を生んで・・・
　もう滅茶苦茶ですよね。それにしても、こんな詩を公にされた智恵子さんはどんな気持ちだったでしょうね。この後、光太郎と結婚している事を思うと嬉しかったのでしょうかね？

　高村智恵子は当時としては珍しく女子大を卒業し、芸術家として自立した女性を目指したようです。しかし福島県二本松市の実家（酒造家）が経済的に窮し、父親が亡くなったこと、また自分自身の芸術家としての才能の限界を感じ精神を病んでいきます。智恵子の生家は高村智恵子記念館として保存されています。

様々な医療機関を転院した後、昭和１０年に大井町にあったゼームズ坂病院に入院しました。智恵子の診察にあたったゼームス坂病院の院長　斎藤玉男は東京帝国医科大学を卒業、大正３年(1914)から翌年にかけ、ドイツ、アメリカに留学し、日本医科大学教授を経て、同院を開設しました。当時、わが国の精神医療の権威だったのです。「高村智恵子の統合失調症は現代医学でも治癒は難しかったでしょう」（高村光太郎記念館高橋卓也さん）

高村光太郎は昭和１３年に妻　智恵子と死別しています。昭和１６年に智恵子抄を発表。智恵子が亡くなった大井町ゼームズ坂病院跡にはレモンの碑がたっています。

　こう記されています。

レモン哀歌

高村光太郎
そんなにもあなたはレモンを待つてゐた
かなしく白くあかるい死の床で
わたしの手からとつた一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズいろの香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱつとあなたの意識を正常にした
あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ
わたしの手を握るあなたの力の健康さよ
あなたの咽喉(のど)に嵐はあるが
かういふ命の瀬戸ぎはに
智恵子はもとの智恵子となり
生涯の愛を一瞬にかたむけた
それからひと時
昔山巓(さんてん)でしたやうな深呼吸を一つして
あなたの機関はそれなり止まつた
写真の前に挿した桜の花かげに
すずしく光るレモンを今日も置かう

　大井町語り部の平林幹夫さんによると、このレモンの碑が建てられた時、全国から女子学生が訪れて大井町駅まで行列ができたそうです。（大井町駅からレモンの碑まで３００ｍ位あります）高村智恵子はアイドルのような人気もあったのでしょうね。

　高村山荘の裏手は小高い丘になっています。この丘の上で高村光太郎は「智恵子―！」と叫んだそうです。高村光太郎は山荘でビールを飲む時は亡くなった智恵子さんの分もマグに注いだそうです。その話を高橋卓也さんから聞いたら涙が出ました。

　高村光太郎が岩手の山で独りになったのは、戦争を賛美した己に対する反省と共に、生前の妻智恵子の芸術意欲に対する無理解から妻を死に追い込んでしまった。そんな自分を戒めた・・・そんな気がします。

　高村光太郎制作日誌「其の六：終章　そして狂気の制作日々は続く・・・」で再見！！